AIに日記を入力したところ、必要以上に深読みされたり、求めていないアドバイスが返ってきたりした経験はないでしょうか。
AIジャーナリングでは、どの生成AIを使うかだけでなく、AIにどのような回答をさせるかを決める「出力プロンプト」が重要です。
同じ文章を入力しても、プロンプト次第で、気持ちの整理を助ける回答にも、説教や決めつけのように感じる回答にもなります。
この記事では、AIジャーナリングの回答を利用目的に応じて切り替える方法と、深読みや不要な助言を防ぐための出力ルールを解説します。
AIジャーナリングでは「何を答えさせるか」が重要
通常のジャーナリングは、自分の考えや感情を文章として外に出し、整理したり振り返ったりする方法です。
AIジャーナリングでは、そこに要約、問いかけ、感情の整理、行動の提案などの支援が加わります。
しかし、日記を書いた人が毎回同じ反応を求めているとは限りません。
- 今日は出来事を記録として残したい
- モヤモヤした気持ちを整理したい
- なぜ気になったのかを考えたい
- 悩みを解決するための行動を決めたい
ただ書き残したい人に詳しい心理分析を返したり、気持ちを受け止めてほしい人に解決策を並べたりすると、AIの回答が負担になることがあります。
そこで必要になるのが、利用者の目的を先に確認し、それに合わせて出力プロンプトを切り替える設計です。
最初に「今日はどうしたい?」を選んでもらう
AIジャーナリングを始める前に、次のような選択肢を表示します。
今日はどうしたい?
○ ただ書き残したい
○ 気持ちを整理したい
○ 原因を考えたい
○ 次の行動を決めたい
この選択によって、AIが担う役割を明確にできます。
利用者自身も「今日はAIに何を求めているのか」を考えられるため、AIから一方的な分析や助言を受けることを防ぎやすくなります。
ただ書き残したい
このモードでは、分析や助言を行わず、記録を残すことを優先します。
AIの回答は「記録しました」など、必要最小限で構いません。
ジャーナリングでは、必ずしも毎回気づきや解決策を得る必要はありません。AIが余計なことを付け加えないことも、重要な体験設計です。
気持ちを整理したい
入力された内容を、例えば次のように整理します。
- 起きた出来事
- そのとき感じたこと
- 本当はどうしたかったか
ここでのAIの役割は、心理を言い当てることではありません。
文章の中にすでにある情報を分かりやすく整理し、利用者が自分の感情を捉えやすくすることです。
原因を考えたい
このモードでは、AIが原因を断定するのではなく、本人が考えるための問いを返します。
例えば、次のような日記を書いたとします。
今日は上司との会議で疲れた。
これに対して、
あなたは他人からの評価を気にしやすく、承認欲求が強いのかもしれません。
と返すのは、書かれていない心理まで推測しています。
代わりに、次のような質問を返します。
会議の中で、特に引っかかった言葉や場面はありましたか?
AIは原因を決める役ではなく、本人が自分で考えるための補助役として扱うことが大切です。
次の行動を決めたい
このモードでは、利用者が変えられることと変えにくいことを整理し、次にできる小さな行動を提案します。
ただし、提案を増やしすぎると、かえって負担になります。
例えば、
次の会議までに、確認したいことを一つメモする。
のように、具体的で実行しやすい行動に絞ります。
AIジャーナリングに必要な8つの出力ルール
目的別にプロンプトを切り替えても、AIの回答には共通のルールが必要です。
基本となるのは、次の8項目です。
- ユーザーの感情や性格を断定しない
- 記載されていない過去や原因を推測しすぎない
- 共感表現を定型化しない
- 回答は原則150文字以内にする
- 助言は求められた場合だけ行う
- 質問は最大1つにする
- 医療的な診断をしない
- 入力の単なる言い換えで終わらせない
1.感情や性格を断定しない
短い日記だけから、その人の性格や心理状態を正確に判断することはできません。
次のような断定は避ける必要があります。
- あなたは自己肯定感が低い
- 承認欲求が強い
- 他人に依存しやすい
- 完璧主義な性格である
本人が書いていない感情に触れる場合は、断定するのではなく、本人に確認する形にします。
例えば、
評価されなかったことへの悔しさもありましたか?
のように、可能性を確認する質問として返します。
2.書かれていない過去や原因を推測しすぎない
生成AIは、文章の空白を埋めるように、もっともらしい背景や物語を作ることがあります。
しかし、自然な文章であっても、それが本人に当てはまるとは限りません。
特に、次のような情報をAIが勝手に推測しないようにします。
- 家庭環境
- 幼少期の経験
- 過去の人間関係
- トラウマ
- 性格が形成された原因
回答では、入力された事実とAIによる推測を明確に分ける必要があります。
原則として、日記に書かれていない過去や原因は補わないように指示します。
3.共感表現を定型化しない
AIジャーナリングでは、毎回次のような文章が返ってくることがあります。
それはつらかったですね。
よく頑張りましたね。
あなたの気持ちはとてもよく分かります。
同じ表現が繰り返されると、回答が機械的に感じられます。
また、本人が「つらい」と書いていないのに、AIが勝手につらい出来事として扱ってしまうこともあります。
共感を必須の定型文にせず、入力内容に応じて、受け止める、整理する、確認するなどの反応を使い分けることが大切です。
4.回答は原則150文字以内にする
日記を書くたびに長い心理分析が返ってくると、読むこと自体が負担になります。
回答を短く制限することで、AIの解釈が必要以上に広がることも防げます。
最初の回答は150文字以内にして、利用者が必要な場合だけ「もう少し掘り下げる」を選べるようにすると、回答量を自分で調整できます。
5.助言は求められた場合だけ行う
感情を言葉にしたいだけなのに、次のような提案が並ぶことがあります。
- 運動しましょう
- 早めに休みましょう
- 深呼吸しましょう
- 相手と話し合いましょう
- ポジティブに考えましょう
内容自体が間違っていなくても、利用者が求めていなければ「話を聞いてもらえなかった」と感じる可能性があります。
助言は「次の行動を決めたい」が選ばれた場合や、利用者が明確に求めた場合に限定します。
6.質問は最大1つにする
AIが一度に複数の質問を返すと、ジャーナリングが問診や宿題のようになります。
例えば、次のような回答です。
なぜそう感じましたか?
過去にも同じことはありましたか?
相手に何を期待していましたか?
次はどうしたいですか?
これでは、利用者がどの質問から考えればよいのか分かりません。
その時点で最も考える価値がある質問を、1つだけ返します。
7.医療的な診断をしない
AIは、日記の内容だけから、うつ病や不安障害などを診断するものではありません。
「この症状は〇〇です」と判断させず、医療的な断定を禁止する必要があります。
強い苦痛が続く、日常生活に支障がある、自分を傷つけたい気持ちがある場合などは、AIだけで抱え込まず、医療機関や公的な相談窓口など、人による支援につながることが大切です。
8.単なる言い換えで終わらせない
入力された文章を短く言い換えただけでは、利用者は新しい価値を感じにくくなります。
例えば、
今日は仕事が忙しくて疲れた。
という入力に対して、
今日は仕事が忙しく、疲れを感じたのですね。
と返すだけでは、ほとんど情報が増えていません。
選ばれた目的に応じて、小さな付加価値を加えます。
- 気持ちを整理するなら、出来事と感情を分ける
- 原因を考えるなら、視点が変わる質問を1つ返す
- 行動を決めるなら、実行可能な選択肢を1つ示す
長い分析をする必要はありません。利用者が少し考えやすくなる回答を目指します。
実際に使える出力プロンプト例
以下は、AIジャーナリングサービスで使用する基本プロンプトの一例です。
あなたは、ユーザーが自分の考えや感情を整理するための補助役です。
心理状態や性格を診断する専門家として振る舞わないでください。
ユーザーが選択した目的に応じて回答してください。
【ただ書き残したい】
分析、質問、助言をせず、短く記録を受け付けてください。
【気持ちを整理したい】
入力された内容から、出来事、感情、望んでいたことを整理してください。
【原因を考えたい】
原因を断定せず、本人が考えるための質問を1つだけ返してください。
【次の行動を決めたい】
本人が変えられることを整理し、実行しやすい行動を1つ提案してください。
【共通ルール】
・感情や性格を断定しない
・記載されていない過去や原因を推測しない
・共感の定型文を毎回使用しない
・回答は原則150文字以内
・助言は求められた場合だけ行う
・質問は最大1つ
・医療的な診断をしない
・入力の言い換えだけで終わらせない
実際のサービスでは、選択された目的、当日の日記、過去の記録などを別々の情報としてAIに渡します。
ルールを文章として書くだけでなく、複数の入力例と望ましい回答例を用意して調整することも重要です。
プロンプトは完成後も改善し続ける
同じプロンプトでも、入力内容によって想定外の回答が生成される可能性があります。
生成AIは同じ質問にも異なる回答をすることがあり、誤った内容や根拠の不明な情報を生成する点にも注意が必要です。
大阪大学の「生成AIに関する注意点」でも、こうした技術的な問題や、個人情報・機密情報の取り扱いに関する注意点が紹介されています。
そのため、出力プロンプトは一度作って終わりではありません。
- 深読みしすぎた回答
- 助言が多すぎた回答
- 長すぎて読まれなかった回答
- 定型的で不自然だった回答
- 利用者が「自分には合わない」と評価した回答
こうした例を確認し、ルールや回答例を継続的に改善していく必要があります。
AIジャーナリングにおいて、プロンプトは裏側の設定ではなく、利用者の体験を左右する主要な機能です。
AIジャーナリングの価値は「深く分析すること」ではない
AIジャーナリングでは、長く専門的な分析ほど価値が高いとは限りません。
利用者が求めているのは、その日の目的に合った支援です。
ただ残したい日は静かに記録する。整理したい日は情報を分ける。原因を考えたい日は質問を1つ返す。行動したい日は小さな一歩を示す。
「今日はどうしたい?」という目的の選択と、深読みや断定を防ぐ出力ルールを組み合わせることが、安心して使いやすいAIジャーナリングにつながります。
AIの役割は、本人より先に答えを出すことではありません。
本人が自分の言葉で考え、気づき、必要なときに次の一歩を選ぶことを支えるものです。
参考情報
大阪大学「生成AIに関する注意点」
https://www.tlsc.osaka-u.ac.jp/project/generative_ai/important_point.html
Contextual AI Journaling: Integrating LLM and Time Series Behavioral Sensing Technology to Promote Health Self-Management
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11275533/

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